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リスは冬眠前に「干しきのこ」をつくっている…! きのことリスの謎だらけの関係お腹を空かしたチップモンク
「今日もライス・ボールか」とボブがウィンクする。ライス・ボールとはわが日本のおにぎりのことである。アメリカのカスケード山脈の麓にあるダグラスファー林が私たちの仕事場で、毎週きのこを調べに通っていた頃の話である。
このあたりにはチンカピンというクリの一種の硬い実とマツの実以外およそリスのえさになりそうなものはない。この大森林地帯は十二月初めから四月末まで雪にとざされているので、冬眠からさめたシマリスのおなかはペコペコに空いているはずである。
雪どけの林のなかを歩いてゆくと、ふいにボブが立ちどまり、持っていたレーキで落葉をひっかき、ガリガリと土を掘る。地面に顔をくっつけんばかりに、大きな体を折り曲げて、何かを探している。
しばらくすると、だいじそうに小さな土くれをつまみ上げた。それは土の中にできるきのこで、腹菌類や子のう菌類の仲間である。地上に顔を出さないので、見つけるのがむずかしく、まだよく知られていないものが多い。
「いかにして見出すや」とたずねると、「このピットをみな。チップモンクが掘った跡だよ」という。よく見ると、ステッキでついたような小さな穴が点々と見つかる。ボブはシマリスのとりこぼしのきのこをひろっていたのである。
数年前、アラスカへきのことりに出かけた。八月なかばでもタイガの森林は秋のように涼しく、どこへ行ってもベニテングタケやイグチ、チチタケの仲間が蹴とばすほどに出ていた。昼休みに立ち寄った湖のそばのアスペンの林でリスのきのこ狩りに出くわした。
倒れた朽ち木の上でシマリスが黄色いベニタケの仲間のきのこをかじりながら、あと足で立ち、こっちを見ていた。少し離れた所でも同じきのこをかじっているシマリスがいたが、シャッターを押した途端、パッと逃げだした。
一匹はきのこを放り出したが、もう一匹はしっかりとくわえたまま、トウヒの木立ちに消えた。シマリスのいた所へ行ってみると、歯がたのついたきのこが散らばっていたが、かじられていたのは一種類だけで、近くにあったキツネタケやベニテングタケは無傷のままだった。
こんなことがあってからブラーの『菌の研究』という一九三〇年頃に出た本を見ると、リスのきのこのたべ方が実にくわしく書いてあった。北米にいるアカリスはきのこを常食にしているのかと思うほどよく食べるという。
冬眠からさめると、土の中のきのこを掘り出して食べる。春先のシマリスやキネズミの仲間の胃のなかはほとんどきのこでつまっているほどである。
うまくしたもので、胞子ができないあいだは匂いが出ないが、胞子が熟してくると、匂いがするので、リスが見つけるのだという。熟した胞子はリスやネズミにたべられて運ばれ、糞になってばらまかれるらしい。
草や木の芽がふき、実がなりはじめると、菌食からしだいに雑食に変わる。北の方のリスたちは夏のあいだに食糧を貯えなければならず、きのこも大切な食糧源である。アラスカのシマリスが運んでいた黄色いきのこもこの貯蔵食糧であったらしい。
冬、乾燥して凍るカナダやアメリカの北部では、リスがきのこを貯えるが、暖冬で湿度の高いイギリスではくさりやすいので、この習性がないという。おそらく、日本のリスも同じだろう。
アカリスはキツツキの穴や木のうろ、枝のあいだにきのこを運びあげてつめこむ。時に空き別荘や廃屋の屋根裏などに貯えることもあり、多いときには二〇〇本をこえることもあるという。主なものはベニタケとイグチの仲間で、有毒のベニテングタケや硬いきのこはない。木の実と一緒に貯えている例がまれだというのもおもしろい。
また、モズが木の枝にカエルの干物をつくるように、トウヒの小枝の股にきのこのひだが下を向くようにひっかけ、風や雪で落ちないようにして干しきのこをつくる。いくつもつるして、冬のあいだに出て来てえさにするというが、雪の深さを知っていて、必ず、一定の高さにつるしている。本能とはいえ、よくしたものである。
リスの仲間にはえさの七七パーセントがきのこだというのもおり、たべる種類は数十にもなる。きのこの栄養価は高く、きのこで飼われたリスはよく育ったが、きのこをやらなかったものはやせて死んでしまったという実験もあるほどにリスときのこの関係は深い。シロアリのように蟻塚をつくってきのこを栽培するところまではゆかないが、リスは人間並みのきのこ狩りの名人であるらしい。
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リスは冬眠前に「干しきのこ」をつくっている…! きのことリスの謎だらけの関係 …の股にきのこのひだが下を向くようにひっかけ、風や雪で落ちないようにして干しきのこをつくる。いくつもつるして、冬のあいだに出て来てえさにするというが、雪… (出典:YAMAKEI ONLINE(ヤマケイオンライン)) |
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